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7%低減する。JONSWAPスペクトラムでは平均周期7.5秒で上下加速度の標準偏差が14%低減し、嘔吐率が18%低減する結果が得られた。全体として波周期の長い方が低減率が高い傾向にある。
なお、海洋波では平均波周期7.5秒は波長60〜85m,8.7秒は80〜110m、波高2mは日本沿岸の年間累積波高頻度で見ると1〜2の海域を除いて70%であり、冬季の累積波高頻度でも60%である。JONSWAPスペクトラムに対して少しく低減率が高いことを考えるとこの船体形状の改良は日本沿海向きであるといえる。

 

4.2の参考文献
1. 幸尾拾郎:乗り物酔いと人間、自動車技術、Vol.36,No.5.1982
2. 富武満:船舶における振動および動揺の許容限界値に関する研究(第1,2報)、関西造船協会誌、第104号(1961.12)、第105号(1962.3)
3. O’Hanlon,J.F.,McCauly,M.E.,:Motion Sickness Incidence as a Function of thc Frequency and Acceleration of Vertical Sinusoidal Motion, Aerospace Medicine, April.1974
4. 宝田直之助:快適な乗り心地の船型、日本造船学会、「新しい造船字」シンポジウム、1990
5. 細田龍介、有馬正和:船の乗り心地に関する研究(第1報、第2報)、日本造船学会論文集・第172号、第173号
6. 細田龍介、他:大阪府立大字海洋システム工学科乗り心地シミュレータについて、関西造船協会誌、第220号、1993
7. 池田良穂、他:旅客船設計における耐航性能評価に関する研究(第1〜4報)、関西造船協会誌、第214号、第222号、第224号、第226号
8. 耐候性理論の設計への応用、日本造船学会、1994.12
以上、本調査研究において、乗り物酔いの発症のメカニズムの解明の方向とその方法論及び発症に伴う多くの生理的、心理的因子の変化を摘出することが出来たが、総合的に発症のメカニズムを解明するには、なお多くの研究を進めなければならない。一方、主要寸法制約下で船体形状だけによる動揺刺激の減少は実海域で14〜15%見込まれ、嘔吐率の減少は17〜18%に達する。この数値は少ないようにも考えられるが、他の諸性能を損なわない条件では大きな成果であると言えると同時に、船体形状だけによる解決には限度があることも認識しなければならない。
今後「乗り物酔いの発症メカニズム」が解明され、動揺刺激の種類、他の環境要因の影響度が体系づけられれば、船体形状の開発も更に高度化、総合化される可能性があると考えられる。近代造船学100年の歴史において、造船技術者の努力は、当然のことながら、海上輸送の効率化に関するハードでクリスプな技術革新であったが、ここまで進展した状態では「船のことは造船技術で」と言った狭い従来の視野では今後の船舶技術の高度化は期待できないこと、その解決方法の一つを本調査研究は端的に示していると言える。

 

 

 

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